2013年6月5日水曜日

偉大なる "Maker" グレアム・オブリー




「いや、後輪でかすぎるだろう(笑)」

Macの画像フォルダを漁っていたら出てきたんですが、これはフランチェスコ・モゼールという選手が1988年に『アワーレコード』(簡単に言うと、自転車を使って、一時間で何km走れるか)の新記録を打ち立てた際に使用されたバイクでございます。

他にも、グレアム・オブリー選手が使ってたこんなんとか…(確か1990年後半)

洗濯機のガラクタ等からうみだされたって、当時は話題でしたね

クリス・ボードマン選手が使ってたこんなやつとか…(こっちも1990年後半)

三菱レイヨンが製造にからんでいたとか……

ちなみに、この2つは上が「タック・フォーム(ポジションだったかも?)」、下が「スーパーマン・ポジション」と呼ばれていました。どちらも「グレアム・オブリー」という自転車選手が試行錯誤の上、DIY精神でバイクを自作してまで生み出したポジションなのです。そう、1990年後半は、キワモノ的なハンドルを持った、これらのヘンテコリンなバイク(失礼)が脚光を浴びていた時代でした。実際に走行している映像がこれです。



ところがこれらのバイクはUCI(国際自転車競技連合)によって使用禁止となってしまいます。彼らの言い分を簡単かつ乱暴にまとめると、「機材の進歩で記録が伸びるのはダメ、機材に頼るな!」ということなんですが……私自身は、人間の体力や技術、そして機材の進歩が相まって、限界を超えるのが「自転車競技」の醍醐味だと思うのです。しかし、それを完全に断ち切ってしまうこのルール、実に不愉快ですねー。大体それを言い出したら「ロードのカーボンモノコックはどうなん?」「MTBのフルサスはどうなのよ?」「風洞を使ってポジションを研究するのは違法ではないのか?」などなど……不可解な事だらけです。

さて前出のモゼール氏、自身が打ちたてアワーレコードを、タック・フォームで挑戦したオブリー選手に破られた際、「機材の進化で記録が伸びるのはどうもねぇ?という発言をしていた」的な記事を、日本のある雑誌で読んだことがありまして。彼もUCI同様、機材の進化やオブリーの事を認めていないのかな?と疑問に思っていたんですが(いや、あんたもおかしな自転車に乗ってたやん、おいおい、みたいな)。しかし最近になって分かったんですが、どうも真実は違うらしいです。以下は「Cycling Time.com 」からの引用にですが…



----- 以下引用 -----

モゼールは、オブリーについて次のように書いている。

「我々、アワーレコードにあえて挑む男たち全員の中には少しの狂気がある。あれほどの苦痛に挑むには頭がおかしくないといけない。メルクスがメキシコシティで自転車を降りた後に言った言葉を覚えているだろうか? 彼は真の苦痛について語っていたのだ。つまり、グレアムは我々全員と同様に狂っている。たぶん我々よりちょっと狂っているだろう。ミスター・オブリーは独特だ。ペダルの芸術家なんだ」

これらの言葉は、スコットランド人自転車選手グレアム・オブリーがヨーロッパの自転車競技界で受け入れられているという最高の尊敬を示している。

----- 引用ここまで -----



「ペダルの芸術家」っていうのは、なかなかな表現ですね。しかし、UCIの役員と選手とでは、これほどまでの温度差があるのか、と。そりゃ常識的に考えたら、選手側の思いはそうなりますよね。もし私が「タック・フォーム」で走った所で、並の記録しか出ないだろうし。さすが偉大なチャンピオン、スポーツマンとして、きちんと認めるべき所は認めた、という所でしょうか?

ま、UCIの暴挙については、実際はもっと複雑極まりない事情があったようで、今でもそのルールが残っちゃっているのは、「昔のエライさんが決めちゃったもんだから、下っ端の僕らじゃ、変えらんないよー(・ω<) テヘペロ 」が真実なのかもしれません。だいたい今も新技術の導入は今も続いているし、それは黙認されているわけで。

で、いまさらなんで20年前の事を取り上げたかというと、それはこういう思いからです。

「1990年代は『プロダクト・デザインを具現化する』という行為について、少なくとも、メーカーに頼らなければならなかった時代だった。そんな時代に、権力者の嫌がらせにも負けず、“Maker”の精神を発揮して自分自身で自転車を作りあげ、偉大な記録を打ち立てたクレイジーな奴がいた。この事実を、常に自分の頭の片隅に置いて、これからもモノづくりに取り組むべきである、と。そうでないと『発達したデジタル機器を活用して小奇麗なものをつくる』という、安易な方向に流されそうな自分の姿がチラついて来たんですね」(2013年6月5日、上野米穀店・代表取締役の談話)


さて、当の本人であるグレアム・オブリー、凝りもせずこんなヘンテコリンな自転車・・・というよりヒューマンビーグルを開発中だと、2012年末に報道されておりました。

写真は「Cycling Time.com 」より引用

写真は「Cycling Time.com 」より引用


もちろん、これもオブリー選手の自作で、さらにカウルを取り付けて、人力での世界最高速度記録更新を目指しているそうですよ、ごっつ乗りにくそうですが(笑)様々なゴタゴタから20年、状況に負けないだけではなく、未だに情熱が衰えていないのはすごいですね。偉大な自転車選手であると同時に、凝りない(笑)Maker でもある“グレアム・オブリー” 全くもって、見習いたいものです。

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